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最高裁判所第二小法廷 昭和33年(オ)687号 判決

上告人 川口スギ

被上告人 青梅税務署長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士増岡章太郎の上告理由は別紙のとおりである。

上告理由第一点について。

論旨は、本訴は財産権上の請求に係る訴訟ではないから、訴状の貼用印紙については、民事訴訟用印紙法三条一項を適用すべき旨を主張するのである。

しかし、上告人の本訴請求は上告人に対する滞納処分として被上告人がした上告人所有不動産の差押処分の取消を求め、右不動産の公売をしてはならない旨の判決を求めるものであつて、要するに、上告人は本訴でその所有不動産の処分禁止を解き、所有権の喪失を防止しようとするのであるから、本訴請求が財産権上の請求であることは明白である。所論のように、行政処分の取消変更を求める訴その他公法上の権利関係に関する訴訟であるからといつて常に非財産権上の訴訟と解すべき理由はない。論旨は裁判所法が公法上の権利関係に関する訴訟について、訴訟の目的の価額にかかわりなく地方裁判所の管轄に属せしめていることをもつて、その主張の根拠にするのであるが、裁判所の管轄に関する規定と訴訟用印紙に関する規定とは別の目的から定められているものと解されるから、所論裁判所法の規定または民訴二二条、二三条の規定によつて、本訴を非財産権上の請求に係る訴訟と解することはできない。所論の人事訴訟と本訴とは全く性質を異にする。論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、かりに本訴に民事訴訟用印紙法二条の適用があるとしても、一審裁判所の本件不動産の価額の認定は高額に過ぎ、従つて、加貼を命じた印紙の額も過大であり違法である旨を主張するのである。

しかし、一審裁判所は本件不動産の昭和三二年度固定資産評価額に従つて、本件訴訟物の価額を一、一四〇、三〇〇円と認定し、これに相応する印紙額七、〇五〇円から五〇〇円を差し引いた六、五五〇円の追貼を命じているのであり、本件のような場合において、固定資産評価額によつて右貼用を命じたことは違法ではない。所論のように公売に際しての最低公売価格が低くても、原判示のように、最低公売価格は時価以下に見積られることが多いのであるから、この事実をもつて右評価を高額に過ぎるということはできない。論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 小谷勝重 藤田八郎 池田克 河村大助 奥野健一)

上告理由

第一点 原判決は、上告人の控訴を棄却する理由として第一審判決の理由と同じであるから、これを引用すると言つている。そこで、第一審判決の理由を見ると、「行政処分に関する請求であつてもその請求が具体的に経済的な利益を内容とする権利関係に関するものであるか否かによつて財産権止の請求か非財産権上の請求かを定めるべきものであることはいうまでもない。………本件不動産の処分禁止を解き、且つ将来引続いて行はるべき公売によるその所有権の喪失を防止しようとするものであるから、右請求は結局において経済的利益を内容とする権利関係に関するものということができ、したがつて、財産権上の請求にあたるというべきである。」と言つて、行政事件の本質と印紙貼否の沿革とを無視し、且つ、法令に根拠を置かない説明をしている。裁判所法第二十四条、第三十四条は、単に行政処分の取消又は変更の請求を地方裁判所の管轄と定めているだけで、経済的な利益を内容とするものは、その利益の額に従い、地方裁判所、簡易裁判所のいづれかの管轄とする旨の定をしていない。即ち、訴訟物の、価額如何に関係なく、地方裁判所の管轄としている。(但し特許訴訟は特許法一二八条の二に依り東京高等裁判所の管轄である。)従つて、財産権上の訴訟でもなく、裁判所法た依り管轄が訴訟の目的の価額に依りて定るものでもないから、民事訴訟法第二十二条第一項は、総べての行政事件に適用がなく、訴訟物の価額を訴を以て主張する利益に依りて算定することはない。又、民事訴訟印紙法第二条が第一項に於て財産権上の訴の訴状に貼用すべき印紙額を定め、第二項に於て財産権上の訴の訴訟物の価額算定方法を定め、第二項に於て財産権上の訴の訴訟物の価額算定方法を定めたものであり非財産権上の訴の訴訟物の価額算定に関係ないことも、その位置と同法第三条とを対照すれば容易に判明する。更に、若し、右判決のようた解すれば、非財産権上の訴の一つである人事訴訟についても、相続人廃除による相続させない財産額、離婚、離縁により分与さるべき財産額(いづれも分与請求しない場合)などを経済的利益があるからと言つて、財産権上の訴状と同額の印紙を貼用することとなり、民事訴訟印紙法が財産権上の訴と経済的利益の有無に関係なく一切の非財産権上の訴との二種に区別し、各別異の印紙貼用額を定めた法意を無意味にすることとなろう。

以上のようにいづれの点よりするも、原判決は、民事訴訟印紙法第二条、第三条、民事訴訟法第二十二条、裁判所法第二十四条第三十三条の解釈を誤つた違法がある。そして、この違法は、判決に影響を及ぼすこと明かであるから、民事訴訟法第三九四条に該る。

第二点 上告人は、原審た於て、被上告人が昭和三十一年二月二十四日午前九時に、本件不動産を最低公売価格七十一万九千円として公売に付したが、全然買手がなく、同年十二月七日午前九時に、最低公売価格を六十九万千円として公売に付した程であるから、起訴の日たる昭和三十一年十二月三日に於ける本件不動産の価格は、七十一万九千円に足らないことは明かである。仮りに、七十一万九千円の価格ありとしても、四千四百円の印紙を加貼すれば足る訳であると陳述した所、被上告人が、右最低公売価格と全然買手がなかつた事実とを認めたに拘らず原判決は、昭和三十二年度り固定資産評価額が百十四万三百円であるから、これが本件不動産の価格であり、訴状に六五五〇円の印紙貼用を命じた第一審判決の認定を妨げる事情とするに足らないと言つて、上告人の控訴を棄却した。仮りに、行政事件につき、民事訴訟印紙法第二条の適用ありとしても、原判決は、同条に違反して過大の印紙加貼を命じた不法がある。そして、この違法は、判決に影響を及ぼすこと明かであるから、民事訴訟法第三九四条に該る。

以上

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